【学習センター機関誌から】春眠暁を覚えず

平野 晋吾 

広島学習センター客員准教授 

春の朝にひろがる気だるさや、うとうとしている心地よさ、もっと眠っていたいと駄々をこねたい子どものような気持ち。新しい生活への不安と希望さえも感じさせてくれる孟浩然の「春暁」は、戦前から教科書に採用されていたようです。現在でも地域によっては小学校から高等学校までに何度も学ぶ方がおられるくらい、日本人にとって最もなじみ深い漢詩の1つだそうです。

春という季節は、私たちにとって、とても大切な時間が流れますし、温暖な気候の中でゆったり眠ることで、前向きになれるという方も多いようです。朝のよい気分や熟眠感(よく寝たー!)は、その1日の生活の質を左右するため大切にしたいですね。適度な睡眠のためには、食事や運動や豊かなコミュニケーションなど、日中の基本的な生活を充実させるとともに、夜と朝の環境を整えることが有効なようです。

ところでこの詩には続きがあります。訓読している私の頭の中には、冬の寒さに震えていた鳥たちが温暖な空気の中で一斉に歌うさえずりや、色とりどりの花々が春一番にゆれている景色が浮かびます。この描写からは、早朝は眠いことに変わりはないのだけれど、淡い光、心地よい音、適度な温度や湿度など、春には気持ちよく目覚めを促す環境が整っていることが感じ取れます。すこし調べてみますと、広島県の4月の日の出は6時前後から始まり、下旬には5時半前後になるようです。たまには早めに布団からはいだして、自然の中で日の出を楽しむのもいいかもしれません。これは「春はあけぼの」的な発想でしょうか。

五言絶句という、たった20文字の詩の中に、これほどの感性豊かな情報量が込められていることに驚きます。文化や環境を共有できる方なら、もっとたくさんの感覚や情動や空間・時間が再生されているのかもしれません。この春は、自然や芸術に触れ、仕事も家庭も充実させながら、ゆっくりと眠る生活をする、という夢を見ることから始めてみようと思います。


広島学習センター機関誌「往還ノート」第253号(2024年4月発行)より掲載

公開日 2024-05-28  最終更新日 2024-06-03

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