放送大学東京足立学習センター客員教授
宮内 貴久
お茶の水女子大学生活科学部人間生活学科で教授を勤めている宮内貴久と申します。
2020年度に放送大学非常勤講師として「しきたりの民俗学」を担当し、2022年度から客員教授に着任しました。私の専門は民俗学、文化人類学です。
これまでおよそ三つの研究テーマを進めてきました。一つ目が風水研究、二つ目が職人巻物研究、三つ目が高度経済成長期の生活変化です。
日本では1990年代末に風水ブームが起こりました。
風水とは、土地の気の流れと土地の相(地相)の陰と陽を判断することによって、そこに住む人々に降りかかる災禍を防ぎ、幸福を招こうとする考え方とその実践です。
風水では死んだ人間の場である墓を「陰宅」・「陰基」と言います。生きている人間の場である都市・村落・住居は「陽宅」・「陽基」と言います。良い地相の土地にバランスよく「家」と「墓」を建設することにより、災禍を防ぎ幸福を呼ぶという考え方です。
3世紀の古代中国で体系化され、東アジア・東南アジアに広く受容されていきました。日本本土では19世紀の初めに家相という形で陽宅風水が定着していきましたが、墓相はほとんど普及しませんでした。
福島県奥会津地方の職人は一人前と認められると、親方から巻物が伝授されるという民俗があります。奥会津では番匠と呼ばれる大工、山から木を切り出す元山、屋根葺き職人などです。
福島県南会津郡只見町では、町史編纂事業において職人巻物の収集巻物の収集が行われました。それに注目して共同研究を始めました。
私は大工を担当し、まず町史に収録された巻物を持つ大工から聞き取り調査、巻物の写真撮影を行いました。そして親方・兄弟弟子を紹介してもらい調査を続け、フィールドを拡大していきました。
明らかになったのは巻物の伝授という民俗は奥会津地方にしか残っていないことでした。奥会津の大工の巻物の多くは「番匠一六巻一流之大事」というもので、宝暦9(1758)年に水戸の大畠彦左衛門から田邊杢之進に伝授されたのが始まりでした。
そして奈良県桜井市にある大神神社の系譜を継ぐ史料であること、全国各地にあること、もっとも古いのは茨城県立歴史館所蔵の茨城県常陸太田市「普門寺史料」で天文12(1543)年であることがわかりました。
高度経済成長期(1955~1973)には団地の建設、家電製品の普及、インフラの整備など生活環境が大きく変化しました。「高度経済成長期に建設されたニュータウンの生活史-移住者も含めて」というテーマで地元の福岡市南区弥永でフィールドワークを進めています。
東京足立学習センター機関誌『葦立』2022年9月発行(第66号)より
公開日 2022-11-18 最終更新日 2022-11-18