橋本 健朗
教授(自然と環境コース)

2025年ノーベル化学賞は、北川 進(京都大学)、リチャード・ロブソン(メルボルン大学)、オマー・ヤギ(カリフォルニア大学バークレー校)の三氏に授与されました。日本は医学生理学賞を坂口 志文氏(大阪大学)が受賞され、10年ぶりのダブル受賞となりました。

化学賞の受賞理由は、「金属―有機構造体の発展(for development of Metal-Organic Framework (MOF))です[1]。MOFは、金属(M)のジョイントと有機化合物(O)の梁からなるレゴブロックで組んだジャングルジムのようなものです(図1[2])。図1からMOF-5が空間(部屋)をたくさん持っていることがわかります(多孔性材料)。そのせいで、MOF-5は約3,500〜3,800 m²/gと、とても高い比表面積を持ちます[3]。おかげで、その空間に水素、メタン、CO2などの気体(ガス)を貯蔵できます。さらに条件を整えるとガスを取り出せます。
温室効果ガスの取り込みや砂漠で水を集めるなど、社会課題の解決に直結する応用が期待されています。面白いことに、こうした活用法はMOF開発の後から考えられました。その研究は何の役に立ちますかと問うより、役立て方を発明しましょうよという方が、楽しそうです。
さて、図1を見るとMOFはまさにミクロな建築物です。細かく見れば、部材であるジョイント(OZ4)も梁(H2bc)も原子の連なりです。部材を作るのに、のこぎり、鉋、金槌、釘などの大工道具は使えません。自然の規則だけに従って、どの原子・イオンをどんな段取りで繋げるか、詰将棋のような知恵が要りそうです。
さらに、無数のブロックをどうやって積み重ねるのか、ピンセットや重機があっても大変ですよね。実は、MOFは自己集合(Self-Assembly)によって自発的に形成される材料です。水に垂らした油が勝手に集まって丸い滴を作る(分子間力による集合)、水分子がある温度・湿度条件下で自発的に六角形の結晶を作る(水素結合による結晶化)のは、身近な自己集合の例です。
外から人が組み立てるわけではなく、分子の性質が形を決めています。少し難しく言うと、MOFは外部から「組み立て指令」を与える必要はなく、熱力学的に安定な構造へと自然に自己集合します。だから、狙い通りに自己集合するように溶媒、温度、濃度、pHなどの条件を適切に整える、いわば舞台装置を整えるのが、人間が知恵を働かせるところです。こうしてみると、高校までの暗記物とは全然違う化学の姿が見えてきませんか。大学の学問が研究と結びついているからこそ、見せてくれる姿だと私は思います。
放送大学では、知識を知恵に高める現代化学の姿を、自然と環境コースが提供する導入科目で扱っています。どうぞ、挑戦してみてください。感動すると思います。
[1] https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2025/press-release/ (2025.12.15アクセス)
[2] Kim, H. K., Jung, J. Y., Kang, G. et al., “Installing a molecular truss beam stabilizes MOF structures”, npj Computational Materials 8, 117 (2022) の Fig.1 を一部改変して転載。© The Authors 2022, licensed under CC BY 4.(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/) OZ4は亜鉛を含むクラスター、H2bcはテレフタル酸リンカーです。
[3] MOF-5の-5は,特定の化学的意味を持つわけではなく、報告されたMOFシリーズの中で「5番目」に位置づけられたことを示す番号です。
関連リンク
(この記事は、2025年12月15日に執筆されました。)
公開日 2026-01-31 最終更新日 2026-01-31










