【学習センター機関誌から】いつの時代でも考える手がかりを示す「人文学」を放送大学で見直そう

川村 和宏
放送大学岩手学習センター客員教員
岩手大学准教授(人文社会科学部)
(専門分野:ドイツ文学)

 

世界情勢が大きく変化する中で、昨年からは特に不安を感じた方や、「なぜこんなことが?」と思った方も多いのではないでしょうか。私自身にとっても、世界の多様性や異文化理解の意味を考え直させられた一年間でした。とりわけ、日々報道される戦禍の「子どもたち」について心配していました。

私自身の専門は『モモ』や『はてしない物語』の作者でドイツの児童文学作家ミヒャエル・エンデの作品や思想で、ドイツの児童文学史について授業することもあります。児童文学の歴史を考えるときに忘れてはならない観点のひとつが、「子ども」たちがいつの時代も「タブラ・ラサ(Tabula rasa)=白紙」で生まれてくるという事実です。

ヨーロッパの児童文学史を振り返ると、様々な時代に社会に都合良い人間を作るために、都度「白紙」状態で生まれてくる子どもたちに対してその時々の大人たちにとって都合の良い教育を施してきた歴史があります。それは、「読み書き」から始まり、前世紀には「イデオロギー」を教え込むための絵本という形でまでありました。現代においてさえ戦禍に晒され、そこで「教育」を受けさせられる子どもたちが心配でなりません。

ところで、すでに大人である私たちは、連日流れてくる大量の情報に白紙の子どもたち同様に染まってしまってはいないでしょうか?メディアに溢れる情報を適切に取捨選択し、判断できているでしょうか?そのように判断や思考に迷うとき、いつの時代にも物事を考える手がかりを示してくれるのがリベラルアーツ、人文学と呼ばれる分野です。例えば、子どもや戦争が描かれた文学から何を読み取れば良いのか、それをドイツの児童文学史は教えてくれています。

在学生の皆さんは、放送大学に在学しているチャンスを生かして、人文系の対面授業にも参加して、様々な質問を各先生に直接投げかけてみてください。きっとそれぞれの先生が「目からうろこ」の観点を示してくれるはずです。


岩手学習センター機関誌「イーハトーブ」188号(2023年5月発行)より

公開日 2023-07-21  最終更新日 2023-07-21

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