【学習センター機関誌から】「おうちで続ける“その人らしい”暮らしを支える看護」

北嶋 結

放送大学青森学習センター客員教員
弘前大学 大学院保健学研究科 ・ 助教

家の模型を持った女性医師の写真

皆さんは「訪問看護」という言葉を聞いたことがありますか?

病院やクリニックで受ける看護とは異なり、訪問看護は看護師が利用者のご自宅に伺い、医療や日常生活の支援を行う看護です。病気や障がいがあっても、住み慣れた自宅でその人らしい暮らしを続けたい―そんな思いを支えるのが、訪問看護の役割です。

私は、地域・在宅看護学を専門とし、長年訪問看護の現場に携わってきました。そこでは、「病気を診る」のではなく、「人を看る」ことの大切さを、日々実感しています。

たとえば、認知症のお年寄りを介護しているご家族。病院では短時間の面会でしか見えなかった葛藤や疲れが、ご自宅ではにじみ出てきます。そんなとき、看護師がそっと話を聞き、ご家族の思いに寄り添うことが、大きな支えになるのです。

また、がんの治療を続けながら自宅で過ごす方や、脳卒中後に麻痺が残った方など、一人ひとり異なる状況に応じて、痛みの緩和やリハビリ、生活動作の支援も行います。医療と生活をつなぐ視点こそが、訪問看護の大きな特徴です。

訪問看護では、医療的な処置にとどまらず、食事や排泄、入浴といった日常のケア、さらにはご家族の悩みや不安にも耳を傾けます。その人が「どう生きたいか」「どのような暮らしを望んでいるか」を丁寧にくみ取り、医師やケアマネジャー、介護職の方々と連携しながら支援を行っていきます。

訪問先の生活の場は一人ひとり異なります。大まかな支援の枠組みはあっても、実際の看護は常にその人に合わせた対応が求められます。その分、創造力や柔軟な視点が大切になり、やりがいのある仕事でもあります。日々の暮らしに寄り添う看護は、時に静かで、ささやかですが、そこには確かな信頼関係が育まれていきます。

また、人生の最期をご自宅で迎えたいと希望される方も増えており、訪問看護はそうした思いにも応える役割を担っています。最期のときまで「その人らしさ」を大切にしたケアを行う―それは、とても尊く、心に残る仕事だと感じています。

医療や福祉の分野に興味がある方はもちろん、「人の暮らし」そのものに関心のある方にも、訪問看護はきっと心に響く分野だと思います。地域の中で人々に寄り添い、支える。そんな看護のかたちを、より多くの方に知っていただけたら嬉しく思います。


青森学習センター機関誌「りんご-林檎-」第123号(2025年夏号)より掲載

関連記事
インターネットで
資料請求も出願もできます!