2024(令和6)年度「放送大学 学位記授与式」が行われました。

2024年3月22日にベルサール高田馬場(東京都新宿区)にて、「2024(令和6)年度 放送大学 学位記授与式」が開催されました。本年度は、教養学部卒業生6,301名、大学院修士課程修了生202名、大学院博士後期課程修了生4名となり、数多くの学生が学びの一つの区切りを迎えました。中でも、最高齢は教養学部94歳、大学院修士課程82歳、大学院博士後期課程76歳。若年層世代から高齢世代まで、幅広い年代での卒業生・修了生を毎年輩出していることは、「生涯学習の放送大学」の象徴です。

式では、文部科学副大臣を始めとした来賓の祝辞の後、各総代の謝辞、名誉学生表彰、教員の教育研究活動表彰が行われました。岩永学長の式辞を紹介し、皆様の卒業・修了を祝福申し上げます。


式辞

放送大学が日本初の放送による教育システムを用いた大学として開学してから42年、現在では約85,000人の学生が日本全国で学ぶ日本最大規模の大学となりました。その間の社会の変化、技術革新などにより、学生の皆さんの学ぶ姿勢や学び方は当初と比べて大きく変わりました。放送そのものよりも、インターネット配信やオンライン科目によって学ぶ方が増えています。単位認定試験もインターネットで自宅受験、卒業研究や大学院のゼミもその多くが同時双方向のリモートで行われています。もちろん、極力インターネットを使わず、従来の放送と印刷教材、対面授業での学習を最適と考える方々もおられます。それもまた放送大学らしさの表れです。要は、この40年余りで放送大学での学びも多様化してきたということでしょう。

しかし、どれだけ変化し多様化したとしても、成人が学ぶことの意味は本質的に変わっておりません。一般に、教科書や教師が絶対的な受動的学習をする未成年と異なり、成人は自己概念が十分に形成されているため、その学習は能動的・自己管理的であると言われます。また、新しい知識や情報よりも経験により得た知見を優先するとも言われます。たしかに、30歳を出たばかりの若輩ものだった私がはじめて放送大学の面接授業を担当した折、最前列の中学の退職校長の方が「どんな話をするんだ、聞いてやる」とばかりに腕組みをされていたこと、そして同じクラスで終始熱心に大きくうなずきながら私の話を聞かれていた高齢の女性が、最後の小論文で全く授業のテーマと関係のない長い身の上話を書いてこられたことなど、私の教師としての未熟さ故だったのかもしれませんが、成人の学習の特性を端的に表す好例だったと思います。

一言で言えば、成人の学習とは、豊富に、しかし未整理の状態で積み上げられた経験知、経験によって得られた知を、学問体系や過去の有為な学問的知見に照らし合わせながら、自分の知の棚に学問知として整理していくことだと思います。その整理によってそれぞれの棚を埋めるのに足りない知識や情報も明らかになり、それを新たな知識や情報として得る努力をする、そうした営みが成人の学習です。決して教員の言葉や印刷教材の記述を鵜呑みにするのではなく、それらを指針あるいはガイドとして自らの経験知を構成し直していく・・・それが最も自然で効果的な成人学習のあり方だと信じております。そうした営みは、一夜漬けで暗記してただ試験をパスするだけの勉強よりも数段高度で複雑な、難しいものです。放送大学教養学部が、「入るは易く出るは難し」と評される所以です。そうした学びの時を経てここにおられる皆さんのこれまでの学修に対する熱い姿勢に、心から敬意を表したいと思います。

今、私たちを取り巻く社会や自然環境、文化状況、国際情勢などを広く見渡すと、かつては予想もできなかった事態が進んでいることに愕然とします。また、そうした事態に関する真偽不明な情報もあふれかえっています。情報をさまざまなメディアから受け取ることも広い意味での成人の学習だと思いますが、その情報さえ、まずは疑ってかからなければならない、容易ならざる時代に私たちは生きているのだと、日々感じざるを得ません。ある意味で、神から「開けてはならぬ」と言われた箱を好奇心いっぱいのパンドラが開け、あらゆる災厄が世に出てしまった、そんな状況が、今、私たちのこの時代に起こっていると言えるかも知れません。パンドラとは「すべての知恵や美を与えられた」という意味を持つ名前です。知恵に乏しければ、そもそも降りかかる災厄やその原因も感知し、認知することはできません。逆に、多く学ぶことは、それだけ危機や災厄への感知力も高まることだと言えます。あるいは、何も知らない方が幸福だという結論にもなりかねません。しかし、パンドラの箱のエピソードには悲劇的ではない結末も付されています。それは、あらゆる災厄が飛び出していった後の箱の底に、「私がまだここにいます」と言いつつ「希望」が残っていたというエピローグです。学びの先には必ず希望がある・・・私はそう信じています。

きょう、放送大学の学部、大学院での学修によって多くの知恵を獲得された皆さんがここに集っておられます。「すべての知恵」あるいは「若さと絶世の美」を持っているとは言えないまでも、豊かな好奇心を持った現代版パンドラの面々であることは間違いないものと思います。大いなる好奇心を持って、ここからさらに多くの希望を見つける旅に出発していただきたいと願っています。今後の皆さんのさらなる研鑽に大いに期待いたします。おめでとう。

令和7年3月22日
放送大学長 岩永雅也


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