【学習センター機関誌から】放送大学と確率・統計

植松 友彦

放送大学東京渋谷学習センター

放送大学東京渋谷学習センター植松友彦所長のお写真

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4月に東京渋谷学習センターの所長に就任しました。3月までは、東京科学大学の工学院情報通信系において教育と研究をしていました。私の専門は、情報の本質を数学的モデルによって解明する情報理論と呼ばれる分野です。情報理論は米国のベル研究所のシャノンが1948年に創始した学問であり、現在広く普及しているデジタル通信やデジタル機器の基盤となる学問です。

情報理論は確率・統計に出てくる「大数(たいすう)の法則」と密接な関係を持っています。大数の法則を簡単に説明すると、表が出る確率が1/2の曲がっていないコインを何回も投げ続けたとき、表が出てきた回数を、コインを投げた回数で割った比が、表が出現する確率1/2に近づいていくというものです。この大数の法則を利用したパズルを一つ考えてみましょう。


ある神社では、男女産み分けのお札を販売しており、男の子用、女の子用がそれぞれ10,000円で売られている。もしお札の効力がなかった場合は、お詫びの5,000円を上乗せして15,000円を返却する。この神社はお札の販売で儲けることができるか。


このパズルは、お札の売れ方によって答えが変わります。例えば、たった1枚しかお札が売れず、お札の効力があった場合、神社は10,000円の儲けがありますが、お札の効力がなかった場合、お詫び代の5000円だけ損をします。説明を簡単にするため、男の子用のお札を買った人についてだけ、神社の儲けを計算すると、1枚のお札による神社の儲けは

             

       男の子が生まれた人の数          女の子が生まれた人の数

 10,000円×——————————————— −5,000円×———————————————-

      男の子用のお札を買った人数         男の子用のお札を買った人数

によって計算できます。ここで、男女が生まれてくる確率が等しく1/2であるとして、先ほどの大数の法則を用いると、(男の子用のお札を買って)男の子が生まれた人数を、男の子用のお札を買った人の総数で割った比は、お札を買った人が増えるに従って1/2に近づきます。女の子についても同様です。従って、たくさんお札が売れれば、1枚のお札あたり平均

 10,000円×(1/2)−5,000円×(1/2)=2,500円

だけ神社は儲けることができます。従って、この神社は宣伝をして、できるだけ多くの札を売れば、確実に儲けることができます。

大数の法則は、生命保険料の算出やヘッジファンドの金利計算などにも利用されています。確率・統計を学ぶことによって、このように一般的な想定とは異なる結果が導かれることがあります。みなさんも放送大学で確率・統計を学んでみませんか。きっと新たな世界が開けると思います。


東京渋谷学習センター機関誌「渋谷でマナブ」第21号(2025年4月発行)より掲載

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