私はこれまで丸4年、客員教員として放送大学徳島学習センターで毎月1回「ゼミ」を担当してきました。初めの2年間はコロナ禍のせいでろくに実施できませんでしたが、令和5年度と6年度は、ほぼ毎月1回のペースで開講することができました。演題は私の専門である風刺とユーモアに引きつけた「古今東西の風刺文学」で、その中身としては、ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』やジョージ・オーウェルの『動物農場』を扱い、主には原作の翻訳を章ごとに講読したり、作品の映像化作品を視聴したりしました。
翻訳はできるだけ多くの訳者による異なる訳を提供すべく、作品の章ごとに異なる訳本を使用しましたし、ビデオはアニメ版を視たり実写版を視たりして、原作や翻訳とは異なる視点で制作された作品に接するようにしました。いずれも、一つの〈ものの見方考え方〉に偏らない方が良いだろうという私自身の考えからです。1時間半という限られた時間内ではこれだけでも十分だったかもしれませんが、ゼミが単調にならないようにと思い、毎回の「ネタ」としてその時どきの風刺に関する様々な話題を提供するようにもしました。最近は、マイケル・ムーア監督の反トランプ映画『華氏119』や、サラリーマン川柳やシルバー川柳の優秀作などの紹介もしましたし、イラストレーターの山藤章二が亡くなったときは彼の代表作をいくつか提示して彼の稀有な才能を惜しみもしました。
作品の講読やビデオの視聴だけでなく、毎回の「ネタ」を通じても、風刺やユーモアが関わりを持つ範囲がいかに幅広いものであり、私たちの社会や生活に密接な関連があるか、批判的精神がいかに世の中の古今東西の事象を見る際に必要不可欠であるかを、受講生の皆さん方に感じてもらうことができたのではないかと思っています。皆さんは実はどなたも私より年長者でいらっしゃいます。ゼミ中に聞かせて頂く人生の先輩方からの感想やコメントは、小生が日頃接している普通の大学生らとは大いに異なっていて、私自身の〈ものの見方や考え方〉を広げたり見直したりする契機になっていることに大変感謝しています。拙いゼミなのですがこの場を借りて受講生の皆さん方に改めてお礼を申し上げたいです。
今年度(令和7年度)もまた「古今東西の風刺文学」という演題でゼミを実施します。この演題だけを見ますといかにも範囲が広く茫洋としているのですが、ゼミで実際に扱う作品やネタは個別具体的なものになります。受講生の皆さんの希望も勘案しつつ何をどういう形で提供するかをいま考えている最中ですが、この文章が『よしの川』に載る頃にはしっかり定まっているハズです。受講生の皆さんと共に今年度もまた「古今東西の風刺文学」とそのときどきの「ネタ」をご一緒に楽しみつつ、〈ものの見方や考え方〉を広げながら、風刺とユーモアを切り口に、世の中のあり方についていろいろと考えて行きたいです。
徳島学習センター機関誌「よしの川」第106号(2025年4月発行)より掲載