【学習センター機関誌から】AI時代の教養について







金水 敏
大阪学習センター所長

今日、ChatGPTを初めとする、生成AIの発達が大変話題になっています。
システムに対して私たちが日常言語で問いかけると、以前までのAIとは比べものにならない速さで、的確な回答をこれも日常言語で返してくれます。今、試しに次のような質問をChatGPTに投げかけてみたところ、3秒もかからず、答えが返ってきました。

Please explain the beauty of Mozart’s music in Japanese.
(モーツァルトの音楽の美しさについて日本語で説明してください)

ChatGPT

モーツァルトの音楽の美しさを説明するのは難しいことですが、彼の音楽はその美しいメロディー、洗練されたハーモニー、そして感情豊かな表現によって称賛されています。彼の作品は時代を超えて愛され、聴く人々の心に深い感動を与えます。モーツァルトの音楽は繊細でありながら力強く、耳に優しい響きが特徴です。その中には喜びや悲しみ、愛情や情熱など、さまざまな感情が表現されています。彼の作品は、人々の心に響く美しさと深い感動をもたらします。

たとえば、これを小レポートに対する解答とするならば、なかなか簡潔にして要領を得た説明になっていますので、及第点が与えられるかもしれません。
それでは、私たちは「ChatGPTはモーツァルトの芸術について知っている」と言うことはできるでしょうか。もちろん、それは難しいでしょう。
ChatGPTのシステムはモーツァルトの音楽を評価する能力はおろか、音楽を“聴く”ことすらできません。システムがやっているのは、人間が書いた膨大な日常言語のテキストから単語を拾い出し、確率に基づいて並べなおし、出力しているに過ぎないのです。
ただし、そのような操作によって“意味”のある回答が出力できてしまうということは驚くべきテクノロジーの成果ですが、出力が意味をなしているかどうかは、それを読んだ(そしてモーツァルトの音楽を聴いたことがある)人間の解釈を俟って初めて完結します。
つまり、生成AIには人間の知能と比べた場合、現実世界に根付いた意味付けという重要な側面(これを“記号接地問題”といいます)が欠けていて、それを利用者である私たちが補って解釈することで、“意味”があるように読めてしまうのです。

このように見てくると、すぐにでもAIが人間のしていることすべてに取って代わってしまうかもしれないという夢(あるいは悪夢)は、杞憂に過ぎないことが分かりますね。
しかし、既に知られている事柄についてきれいに整理された要約を(驚くべき早さで)作り出すというような作業であれば、これほど心強いツールはありません。
ビジネスや教育の現場では、AIの活躍する場面がどんどん増えていくことでしょう。そういう意味では、AIはどんどん人のする仕事を奪っていくことと思われます。知識を右から左へ移し替えるだけのような仕事をしている人の仕事は、という意味です。
これから放送大学を初めとする高等教育に求められるのは、文字上の知識だけでなく、きちんと生活の実感に基づいた、血の通った知識を作り出すことができる能力です。AIの時代であるからこそ、私たちの知識の“質”が問われているし、私たちが大学で学ぶ意義もそこにあると言わなければなりません。
AIの発達は、そのような知識の本質について考えさせてくれています。


大阪学習センター機関誌「みおつくし」第93号(2024年4月発行)より掲載

公開日 2024-06-28  最終更新日 2024-06-28

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