【学習センター機関誌から】私とオンライン授業ー過去・現代・未来

秋田学習センター客員教授  中野 良樹

大学の授業をオンラインで行うようになって2年目。以前からオンライン技術を授業に活用することに関心はありましたが、こんな形で実現するとは思ってもいませんでした。関心のきっかけは、数年前MOOC(Massive open onlinecourse)というネット上の大規模オンライン講座を知ったことです。米国のスタンフォード大学が授業を提供したのをきっかけに、MOOC はネット環境と端末があれば誰でもどこでも世界中の有名大学の質の高いオンライン授業が受けられる、「教育の民主化革命」を引き起こしました。

ひと口にオンライン授業といっても、3種類に分かれます。一つはMOOC のような「オンデマンド型」で、教員が授業動画や資料をネット上で公開し、受講生は決められた期間内にアクセスします。もう一つはZoomなどを使って講義を生配信する「リアルタイム配信型」で、多くの大学で遠隔授業に利用される形式です。そして、これらの方法と教室での対面授業を組み合わせた「ハイブリッド型」です。


MOOC と同じ頃、オンライン技術を活用した「反転授業」という方法が注目されました。これは受講生が事前にオンデマンドで講義内容を学習し、対面授業はディスカッションや発表、質疑応答に充てます。つまり教室で講義、授業外で課題や作業という形式を反転させ、知識の修得はオンデマンドで事前に済ませ、対面授業をアクティブラーニングで活性化するハイブリッド型です。米国では”Flipped Classroom”と呼ばれ、中学、高校の先生たちが生徒の学習意欲を高めようと現場で試行錯誤する過程で広まったそうです。私はMOOC と反転授業を知り、自分の授業の賞味期限が切れかけていることを痛感する一方で、将来の授業改善の指針を得たように感じました。とはいえ、当時はオンラインで授業を行う技術も知識もなく、相変わらず「古典的」な授業を続けていました。


ところが、現在、大学の授業をオンライン化せざるを得ない事態で、私も大人数講義を昨年度はリアルタイム配信型で行いました。しかし、効果的なオンライン授業ができたかは疑問で、学期末の授業評価は対面式のときよりだいぶ下がりました。特に、オンライン授業でも評価の公正さを保つため、複数回のレポートとオンライン上で試験を行いましたが、これが厳しすぎと捉えられたようです。受講生から「自分の受講している全ての講義は、レポートか期末テストのどちらかであるのに対し、この授業ではその両方を生徒に課し、ありえないほど貪欲であると思った。さらにテストでも全ての講義の中で唯一、テスト中はZoom で顔を見せろという徹底ぶりで心底非情さを感じた(原文ママ)」という感想が寄せられました。

今年は昨年の反省を踏まえるつもりが、今度はオンデマンド形式の授業にする必要に迫られました。授業動画づくりは予想以上に時間を要し、前後半30分の動画に準備から撮影完了までその3倍はかかります。視聴した受講生の反応が分からないので、授業評価は昨年度より低いのではと危惧していましたが、中間評価は意外に好評で、「授業の内容は興味深い」という項目では44名中40名が「そう思う」と評定していました。「自分のペースで考えられるところが良い」、「前後半に分かれているので、途中で休憩時間を取れて楽しい気持ちで受講できる」なども理由のようです。

試行錯誤、手探りしながらオンライン授業に対応してきましたが、その過程で図らずも2つのオンライン形式の技術が身につきました。対面授業に戻っても、オンライン授業の資産は残したいものです。パソコン、タブレット、スマホはすべて使用可にするでしょうし、SDGs の点からも紙資料は配布しないでしょう。受講生の自学自習や授業への参加意欲を高めるため、反転授業も実際に試しながら追究していきたいです。


秋田学習センター機関誌「ばっけ」第98号より

公開日 2021-10-15  最終更新日 2022-11-08

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