放送大学新潟学習センター

学生研修旅行のしおり



奥只見湖と「鈴木牧之記念館」への旅
佐藤 晃一

新潟駅を出発するときには雨の心配もありましたが、奥只見湖に着いてバスから降りた時には晴れ間も覗いていました。
紅葉の盛りには1~2週間ほど早いらしく、ほんのりと色づき始めた位でしたが、それでも湖面を進む遊覧船のデッキから爽やかな秋風に吹かれながら見た山々の連なりは雄大でした。
昼食後に訪れた「鈴木牧之記念館」は、塩沢に生まれ特産の縮の仲買で財をなした、地主でもあり、文人でもあった鈴木牧之の記念館です。
牧之は商いで江戸に行った折、江戸の人々が越後の雪の多さ、その過酷さを知らないことに驚き、雪を主題とした随筆で地元を紹介しようと「北越雪譜」を執筆し、江戸で出版しました。
塩沢地区は現代でも日本有数の豪雪地帯です。牧之の生きた江戸中期の冬の生活は、今の私たちの想像をはるかに超えるものでした。
同書の中で牧之は、雪の結晶、雪国独特の習俗・行事・遊びや伝承、大雪災害の悲劇、雪国ならではの苦悩などを書き連ねています。
その中で江戸や京の人々の降雪に対する認識、「雪は桜や蝶にも喩えられ、風情あるものとして酒食音律の楽しみを添え、画に写し詩に連ねて賞翫すべし」に対しては、降雪への備え、雪掘り、吹雪の恐ろしさ等を説いて、「我が越後のごとく年ごとに幾丈の雪を視ば何の楽しき事かあらん、雪の為に力を尽くし財を費やして千辛万苦するなり」と、都人の無知を痛烈に批判しています。
これが豪雪地帯に暮らす方々の本音でしょう。今年もまた雪の季節に入ってきました。鈴木牧之と北越雪譜に触れたことで、古今の豪雪地帯に暮らす人々の労苦にあらためて思いを馳せることができました。
意義ある研修旅行を企画・実施してくださった方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。
雪がもたらした文化と恩恵の旅
山田 信子

東博やMOMATの「はにわ展」が何かと話題にのぼる中で、高崎の古墳群を訪ねる旅行だったのにと未練を引きずっての参加でした。
午前は奥只見湖周辺の散策、午後は鈴木牧之記念館を訪れ、そこには江戸時代に牧之が40年もの年月をかけて出版した「北越雪譜」の初版本が展示されていました。雪、暮らし、縮、行事、奇譚など雪国の興味ある話が全7巻に収められていて、その中の一つに異獣がありました。
竹助という男が山道で焼飯を食べていると異獣が現れ、彼が焼飯をあげるとそのお礼に重い荷物を担いで目的地まで運んでくれたという内容でした。
私は文学の勉強会で、宮部みゆきの「よって件のごとし」を堀先生の指導で学んでいますが、物語の時代背景や構成に類似点がみられるものの、宮部作品に登場する妖怪はとても不気味で、それは癌細胞や闇バイトの地獄を連想させ、小心者の私は気が重くなってしまいました。
他方の鈴木牧之は、竹助と異獣の自利利他の交流、熊が雪中に人を救った話、助けられた鶴が実り多き稲を運んで来てくれて逸話等には温かさが伝わってきました。
百物語を越えた百二十五物語は当時のベストセラーになり、また牧之の挿絵の素晴らしさに感動させられました。異獣の躍動感、そりを引く子供等の表情におもわずにっこりさせられました。青い鳥は案外身近に潜んでいました。
雪の文化と恩恵の体験学習をさせていいただきありがとうございました。改めて感謝申し上げます。
新潟学習センター機関誌「松籟」第149号(2025年1月発行)より掲載