【学習センター機関誌から】学問と演奏の二刀流

放送大学 東京足立学習センター 客員教員

永原 恵三

 

 

 

 

2021年3月にお茶の水女子大学を定年退職し、4月から本学習センター客員教授に着任いたしました、永原恵三です。2015年からの南関東学習センター合同プロジェクト「第九を歌おう」以来の5年間は、面接授業を担当しておりました。また、遡ると2002年2月〜3月には、足立区生涯学習振興公社主催公開講座の連続講座「バロックの音楽と文化」で、この「学びピア」に伺いましたので、このセンターにはとてもご縁を感じております。


私の専門は音楽学と声楽・合唱指揮で、学問と演奏実践の二足のわらじ、最近のはやりで言えば、「二刀流」を演じております。もちろん、それぞれについても専門の領域があります。共通するのは、対象が声を用いた音楽であることや、実際の演奏現場を考えることであったりします。具体的には、西洋音楽ではルネサンスやバロックなど古いところから現代にいたる合唱やアンサンブルの音楽、日本では祭礼行事のお囃子や民謡などが対象です。以前はフィールドワークにもよく出かけておりました。また、カトリック教会の音楽も現代を中心にして研究しています。学問をする上で、実際の演奏の現場を踏まえることが大事だと考え、机上で完結しない研究を心がけています。そのため、必然的に、それぞれの音楽の伝承や様式などを、自分の身体に落とし込むことになります。


こうした研究のあり方から出てきた成果が、「思考としての音楽」という考え方です。2012年に『合唱の思考 柴田南雄論の試み』という著書を刊行しておりますが、そこでは柴田南雄という日本の現代音楽の巨匠に力を借りることで、合唱音楽の在り方を本源的に捉えました。音楽を作曲したり演奏したり、もちろん聴いたりすることには、いずれも感性の分野が作用しているのは言うまでもありません。しかし、それとともに、人間の思考がそこに作用していることも、私たちはもっと積極的に理解してもよいのではないか、と思っています。「思考」は、世間で考えられているような「頭でっかち」なことではなく、私たちの「身体」、「肉体」というフィジカルな面での実際の働きと深く関わっていることです。これはとりわけ声について考えてみるとよくわかります。


合唱やアンサンブルという集団での音楽行動は、構成員の一人ひとりの声や音を、それぞれ異なったものとして生かしながら、音楽というシステム全体が作用するときに出来上がるものです。一人ひとりの差異があるからこそ、全体の豊かな音響が生まれると考えています。音楽活動のなかに、私たちがこの社会を生きてゆくための様々なヒントが散りばめられているのではないか、と思っております。


 

東京足立学習センター機関誌「葦立(あしだち)」64号より

 

公開日 2022-01-18  最終更新日 2022-11-08

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